【シリーズ②】「伝統構法・歴史的建造物から学ぶ」

「伝統構法・歴史的建造物から学ぶ」と題して、伝統建築と現代建築を比較しながら、現代にも参考になるような手法や想いも着目し、お話しをさせて頂きます。
歴史的建造物(社寺仏閣、古民家など)の調査・修復設計・企画を専門とする、一級建築士事務所 「アトリエ 縁」代表 清水 徹 様 にご登場いただきます。

 

写真左:一級建築士事務所「アトリエ 縁」代表 清水徹 氏

プロフィール/1977年、富山県氷見市出身。2002年3月に新潟大学大学院博士前期課程を修了、同年7月に「アトリエ 縁」を起業・設立。2006年に「一級建築士事務所 アトリエ 縁」と改称し、代表を務める。専門は歴史的建造物(寺院、神社、古民家)の修復設計・企画だが、これらの建物から培った知見を取り入れた一般住宅や店舗の設計・監理も行う。建築専門学校の主任講師を務め、また、郷土史の執筆や講演会の講師を務める。公益財団法人 雪だるま財団との恊働により雪エネルギーの研究にも携わる。日本建築学会北陸支部より、2013年度北陸建築文化賞受賞。

 

 写真右:株式会社ナレッジライフ 代表取締役社長 中村勝治

※プロフィールはこちらから。

 

■日本における住宅建築工法の歴史について

日本で古来から用いられてきた木組みを基本とする木構造は、現代では「伝統構法」と呼ばれ、住宅等の一般的な建築物に用いられる「在来軸組工法」とは区別されます。

明治維新以後、日本が近代国家へと歩み始め、西洋から様々な文化・技術が導入され、レンガ造り・鉄骨造・RC造・トラス構造などが造られるようになりました。
いわゆる洋風建築は学校や役所などの公的な建物にまず導入され、次第に住宅建築にも広がって行く事となります。

大正期には住宅改良の動きがあらわれ、それまでの定型的な平面計画等が見直される事となります。この時の創意工夫や発想が、現代に通じる住宅建築の原点なのではないかと考えます。

なぜこのような変化が起こったかについて、私は生活様式と社会情勢の変化が主な理由なのではないかと思います。

 

建築が大きく変化する際には何かしらの要因が考えられます。

その一つには上記で示したような生活様式の変化が挙げられるでしょう。また、外的要因も考えられます。自然災害、主に震災がそれに当たるのではないでしょうか。
明治24年に岐阜県で起きた「濃尾地震」や大正12年に起きた「関東大震災」、昭和23年に福井県で起きた「福井地震」などは日本の住宅建築に大きな変革をもたらしたと言われています。

その後、昭和25年に建築基準法が国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低基準を定めたものとして制定されました。

住宅においても、伝統構法をベースとした新たな工法が生まれ、その中の一つが「在来軸組工法」であると考える事ができます。

それまでに造られてきた建築の全てがそうであった訳ですから、伝統構法は社寺、城郭、民家など多岐にわたるため、これを一般化する事は難しいですが、大まかに言うと鉛直荷重も水平荷重も軸組により受け、柱脚は基礎に固定しない構法と言えるのではないでしょうか。

「在来軸組工法」とは土台や柱、梁などで組まれた軸組の中に耐震要素としての筋かいを入れ、仕口は金物で補強し、基礎に建物を固定するといった工法を指します。

 

 
 

新潟市の歴史的建造物

レンガ造の建物

 

トラス構造の建物

 

 

■伝統工法と現代建築工法の構造について

建築基準法が制定され建築に関する基準が示されて以後、改定を重ねながら今日に至るわけですが、建築基準法の中には、それ以前の大工や職人達が培ってきた経験や感覚が数値化されたのではないかと考えられるものが散見されます。

かつては「経験」で建物を造ってきたのですが、決してそれを軽んずる事は出来ない訳ですね。 

ナレッジライフ「伝統構法から学ぶ」研究会

継承されてきた技術

 

それぞれの特長について

在来軸組工法も含めた現代建築工法は「剛」、伝統構法は「柔」と考える事が出来ます。

「剛」構造は、「建物を"固めて"強度を出す」という考え方
「柔」構造は、「建物が外力を吸収し、減衰する構造」という考え方です。

つまり、

剛構造は、建物そのものや、部材と部材の接合部を固くする事で外力に抵抗しようとする構造
柔構造は、揺れることで、各接合部が外力を減衰し、建物に掛かる様々な力をうまく分散させる構造

と考える事ができます。

固く造ることは「強い」と思いがちですが、固すぎると固めた部分に外力が集中し、局所的に大きな力がかかってしまう場合があります。
ですので、そういった部分はより堅固にする必要が出てきます。そうすると建物のバランスを崩すことにもなりかねません。

基準法の中の「耐震等級」についても同様で、その数値が高い事は建物が固い事を示しますが、それイコール強いとするのはやや疑問が残ります。
個人的にはむしろ建物のバランスを重視すべきではないかと思います。

そのためには単純に数値に頼るだけでなく、バランスを整えるための高度な知識と経験が必要と思います。

 

構造計算について

伝統構法でも構造計算を行うことは多々あります。

現存する歴史的建造物の改修や補強をする際には、高度な構造計算を行います。先人たちの造った勘や技術の裏付けをするものであり、また、それが必要とされる時代になってきました。

 

一般的な住宅建築に話を戻すと、これに用いられる簡単な構造計算は剛構造(筋かい等により固められた構造)を前提とし、固い=強いという考え方のもと行います。

また、構造計算はあくまで建物をモデル化して行うものなので、木造の場合、木材1本1本で強度も違いますし、同じものはない・・・
そういった意味では工業製品化された部材による構造に比べて、強度計算もしにくいのかもしれません。

そうなると構造計算に加えて、かつて培ってきた職人の勘や経験(木材のクセや木取りの仕方、仕口の選び方など)をうまく加味する事でバランスをとる事が大事なのかもしれません。

 

 

■その土地に合った木材料を使う

現代の木造住宅は規格化され建材や多様な木材の普及により、全国どこでも同じ家が建てられるようになりました。
これは、現代の流通の進化や要求に合わせたものと考えれば、一概に悪いことではないかもしれません。

しかし、かつてはその家が建つ国・土地に合った木材を使用し、その場所場所においてその地に合った個性的な建物が造られ、それがどこをとっても同じではなく、それぞれの町並みを形成していました。
その国・土地の気候や特性に合った木材を使用することは、それで成り立つ家自体にも良い環境とも言えるのではないでしょうか。

例えば、日本では桧材が良いとされますが、韓国では主にマツ材を重用するそうです。
これはその国に合った現地の木材でつくることが一番良い、という先人達の知恵と経験を継承しているからかもしれません。

建物を長く良好な状態で使用するためには、少しお金をかけてでも構造材には安心できる確かな木材、かつ年輪の細かい材を使うべきと考えています。

 

   
日本の「桧」 韓国の歴史的建造物

 

 

■住宅はメンテナンスを繰り返して長く住まう

歴史的建築物は、改修や修繕を重ね、その歴史を現代まで伝承しています。

建立から数百年を数える社寺建築は、定期的な修繕を重ね、傷んだ部材は繕ったり取替えたりしながら今日までその姿を残しています。

 

  日本の社寺建築

 

ある大伽藍を持つ寺院では、来たるべき改修時期に備えて今から山にケヤキを植林しているとのことです。

近年の住宅では、古くなったから建替える(30~40年ごと)という考えが定着してしまっているのではないでしょうか。
ここ最近では壊されずにそのまま空き家になっているケースもありますよね。空き家になると、家の老朽化の速度も早くなってしまいます。

そこに住んで毎日清掃することが、家にとって一番のメンテナンスなのかもしれません。

大事なのは「良い物をつくって、きちんと手入れをして、長く大切に使う」ことです。この点では歴史的建造物と共通する部分があるのかもしれません。
メンテナンスすることは当たり前。それにより家に愛着も湧いてきます。

 


清水様、貴重なお話をありがとうございました。

 

お話しを伺い、思うこと・・・
それは、先人達は建物をとにかく一生懸命良いものをつくろうと努力してきた。

それが現在、我々がつくっている建築の礎になっているということです。

 

メンテナンスがいらない建物というのは、建物の長寿性という観点からみれば相反することかもしれません。
長生きする建物を造る。それを実現する工法や材料・技術は伝統構法の中にも多くあります。

原点に帰ることも必要かもしれません。

しかしながら、現代の生活スタイルにあわせて住宅設備なども、どんどん便利なものが出てきます。
それらをバランス良く取り入れ、その時の暮らし方にあ合った家をメンテナンスしながら住み継いでいくことが大切なのかもしれません。

長生きする家をつくるには、物理的性能の要素(耐久性・耐震性・断熱性・利便性など)はもちろんですが、それだけでは成り立ちません。
先にも述べたように、やはり大切なのは家に「愛着」を持つことです。

「愛着を持つ」ということには、人それぞれの要素があると思います。

例えば、歴史的建造物には小屋裏に棟札という木札が置いてあり、上棟時の施主名・大工・年月日・工事の由緒などを知る事ができます。
その建物が何十年と経って、何かのきっかけでその棟札を見た時、新築当時の事柄や想い・歴史などが読み取れ、愛着が生まれるなんてこともあるかもしれません。

棟札

家づくりを始める時から我が子を育てるように愛着を持てると、家が喜ぶことにも目を向けられ、ちょっと高くても良い木材を使ってあげようなんて思うかもしれません。

愛着を持つという原点は、住み手もその家の工事に関わることです。子育てと同様に、我が子を愛でるように接すると愛着も生まれてくるのではないでしょうか。
そして長く住まえる長寿の家とは、子々孫々と愛着や想いを継承していくことなのかもしれません。

 

 

これまで話してきたように、歴史的建造物や伝統的な建築から学ぶところもたくさんあります。

これまで継承されてきた手法や想いを参考にしながら、これからも「愛着を持ち、毎日を丁寧に暮らしたくなる」そんな家づくりをご提案してまいります。

 

 


 

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